抗がん剤ターゲット「Claudin18.2」

このページは、治療の相談に向けた“下調べ”をやさしく整理するためのガイドです。
医師から「Claudin18.2(クローディン18.2)」という言葉を聞いた方が、まず全体像をつかみ、自分の状況にどう関係するかを考える助けになるように書いています。最終判断は必ず主治医とご相談ください。

1. Claudin18.2とは?——まず“ひとことで”

  • ひとことで:Claudin18.2は、胃の粘膜細胞どうしを“隙間なくつなぐ”ためのタイトジャンクションという構造をつくるたんぱく質の一部です。がん化の過程で細胞の表側に露出し、薬が結合しやすい“目印”になります。Nature
  • 少し詳しく:Claudin18には「18.1(主に肺)」「18.2(主に胃)」の2つの型があり、18.2は正常胃粘膜に強く、胃がんや一部の消化器がんで維持・露出されることがあります。zolbecldn

読み方のコツ:専門語はあとからでOK。「胃に多い構造タンパクが、がん化で“薬の標的”として見えやすくなる」と押さえましょう。Nature

claudin

Astellas Pharma HPより引用


2. Claudin18.2が関わる主ながん——自分に関係する?

  • 胃がん・食道胃接合部(GEJ)がん:Claudin18.2陽性というサブタイプがあり、治療選択に直結します。Nature
  • 膵がん・胆道がんなど:発現がみられることがあり、臨床試験でClaudin18.2を標的にした治療が検討されています。NordiQC

ここがポイントClaudin18.2陽性かどうかが治療の方向性に関わります。まず病理結果追加検査の実施有無を確認しましょう。


3. Claudin18.2の調べ方(検査)——結果票の“どこを見る?”

まずは、ご自身の病理・バイオマーカー結果に**「Claudin18.2」や「CLDN18.2」**という語があるかをチェック。

3-1. 免疫染色(IHC)

  • 基本:顕微鏡でClaudin18.2たんぱくの**染まり具合(膜染色)**を評価します。
  • FDA承認のコンパニオン診断:VENTANA CLDN18(43-14A)RxDx Assay では、腫瘍細胞の≥75%が“中等度以上”の膜染色なら陽性と判定します(胃/GEJ腺がん)。DiagnosticsFDA Access Data

3-2. 遺伝子増幅(ISH/FISH等)

  • Claudin18.2は“過剰コピー(増幅)”をみるタイプではありません。
    通常、この検査は適応外です(HER2とは異なります)。発現の有無はIHCが主役です。Nature

3-3. 遺伝子変異(NGS等)

  • NGSで別の治療標的併存変異を調べることはありますが、Claudin18.2治療の可否はIHC結果で判断されます。Nature

3-4. 「Claudin18.2-low」という新しい層

  • 現時点でHER2の“low”のような標準定義は一般診療では用いられていません。承認薬(下記)でも**明確な陽性基準(例:≥75%)**が示されています。Diagnostics

注意
標本の取り方や固定条件で染色に影響が出ることがあります。再評価が役立つ場面も。サイエンスダイレクトPubMed
一次診断標本と転移部位で状態が異なることがあり、必要に応じて再検査が検討されます。


4. Claudin18.2をねらう治療——“役割分担”のイメージで理解

治療の種類ごとに「何をしている薬か」をイメージすると理解が進みます。

4-1. モノクローナル抗体(例:ゾルベツキシマブ/Vyloy)

  • 仕組み:Claudin18.2に結合してがん細胞を免疫反応で壊しやすくします。
  • 承認状況(米国)ゾルベツキシマブ(Vyloy)+フッ化ピリミジン系+白金製剤が、HER2陰性の進行・再発胃/GEJ腺がんの一次治療として2024年10月18日にFDA承認。併せてRocheのVENTANA CLDN18(43-14A)RxDx Assayがコンパニオン診断として承認されました。U.S. Food and Drug Administration
  • (参考)日本・英国などでも承認が進みました。Reuters

4-2. ADC(抗体薬物複合体:臨床試験が進行中)

  • 考え方:Claudin18.2に結合する抗体に、強力な**抗がん薬(ペイロード)**を“宅配”するタイプ。
  • 代表的な開発薬

4-3. TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)

  • Claudin18.2向けの内服TKIは現在ありません。(HER2とは違う点です)

4-4. 併用の考え方

  • 化学療法との併用が基本。今後、免疫療法や他の分子標的薬との組合せが研究されています。CAR-Tのような細胞療法も開発が進み、中国ではClaudin18.2 CAR-T(サトリセル/CT041)がNMPAへ承認申請受理まで進みました。BioSpaceAmerican Society of Clinical Oncology

ここがポイント
IHCでの陽性判定(どのキットで、どう判定したか)
がん種/病期/全身状態/既治療
国ごとの承認状況と臨床試験の有無
総合して治療が選ばれます。U.S. Food and Drug Administration


5. 副作用と観察ポイント——“早めの相談”がコツ

**モノクローナル抗体(ゾルベツキシマブ)**で代表的に注意する症状:

  • 吐き気・嘔吐、食欲低下、下痢(化学療法と合わさるため悪心対策が大切)
  • 点滴時反応(発熱・寒気など。初回に起こりやすい)
  • 血球減少(好中球減少、発熱性好中球減少など)
    ※FDA承認時の試験(SPOTLIGHT/GLOW)で上記の重篤な有害事象が報告されています。小さな異変でも自己判断で様子見せず、早めに医療者へU.S. Food and Drug Administration

大切なお願い:副作用がつらいと感じたら、我慢せずに治療チームへ。中止や減量も含め、「安全に続ける工夫」を一緒に考えましょう。


6. 治療を選ぶまでの“道順”——主治医と話すときのメモ例

  1. 検査の確認:IHCのキット名判定基準(例:VENTANA 43-14A、≥75%など)、標本の部位・採取日、再検討の可否。Diagnostics
  2. 現状の把握:病期、合併症、生活で大切にしたいこと(仕事・学業・介護など)。
  3. 選択肢の比較:標準治療と臨床試験を横並びにして、通院頻度・内服/点滴・期待できる効果と注意点を見比べる。
  4. 計画を決める:優先度(治療の強さ、通院距離、吐き気対策など)を言語化。

7. よくある質問(FAQ)——悩みやすいポイントだけ

Q1. 陽性の“%基準”は病院で違いますか?
A. キットごとに承認された判定法があります。米国の承認薬では**≥75%(中等度以上の膜染色)**が基準です。検査法と基準をセットで確認しましょう。Diagnostics

Q2. HER2‐lowのように“Claudin18.2-low”でも薬は効きますか?
A. 現時点でlowの標準定義は臨床で用いられていません。承認薬は明確な陽性基準を前提に使われます。Diagnostics

Q3. ADCやCAR-Tは使えますか?
A. 原則は臨床試験での提供です。対象・地域・施設で取り扱いが異なるため、治験の可否を主治医に相談しましょう。NatureAmerican Society of Clinical Oncology


8. 用語ミニ辞典——“ひとことで”理解

  • タイトジャンクション:細胞どうしの“すき間”をふさぐ結合。Claudin18.2はその構成要素。Nature
  • IHC(免疫染色):たんぱく質の量や場所(膜)を染色で評価。Claudin18.2の主な判定法Diagnostics
  • コンパニオン診断:特定の薬を使う前に対象患者を選ぶための検査。U.S. Food and Drug Administration
  • ADC:抗体に“運び屋”として抗がん薬をつないだ治療。Claudin18.2向けに複数の開発が進行。PubMed

9. 参考の探し方

  • 公的機関の薬事情報(英語):FDAの承認情報(薬効・試験結果・安全性)。U.S. Food and Drug Administration
  • 検査情報:RocheのVENTANA CLDN18(43-14A)RxDx解説・判定ガイド。Diagnostics
  • 総説:Nature Reviewsなどの患者にも読みやすい解説図つきレビュー。Nature
  • 外部サイトは更新されます。「Claudin18.2 患者 胃がん IHC」「Vyloy 患者向け」などの組み合わせ検索もおすすめです。

10. 免責事項

本ページは一般的な情報提供を目的としています。診断・治療は個別性が高く、最終判断は必ず主治医にご相談ください。Trial Compassは医療行為を提供しません。

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