はじめに(疾患背景と現行治療の課題)
急性骨髄性白血病(AML)は、骨髄をつくる細胞ががん化することで白血球の前駆細胞が異常に増殖し、正常な血液細胞が作られなくなる病気です。子ども・青年では近年治療成績が改善してきましたが、完全寛解後・または再発後に**同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation; 同期移植)**を行うことが、長期生存・再発予防の上で重要な戦略とされています。
移植前には「コンディショニングレジメン(conditioning regimen)」と呼ばれる強力な化学療法を用いて、患者の骨髄を準備 (= 残存AML細胞の除去、免疫寛容性を作る、ドナー幹細胞が生着しやすくするなど) します。ただし、使用する薬剤の組み合わせによって、治療効果だけでなく短期・長期の副作用(移植関連死亡、臓器障害、感染、移植片対宿主病[GVHD]など)のリスクが変わるため、「最も効果があり、かつ毒性が低い」レジメンが模索されています。
SCRIPT-AML 試験は、現行でよく使われている3種類のアルキル化薬(alkylator)を含む標準的なレジメン(BuCyMel)と、アルキル化薬を1種類に減らし代わりに抗代謝薬(antimetabolite)を二種類組み入れたレジメン(CloFluBu)を比較することで、「同等以上の効果を保ちつつ副作用や移植後の合併症を軽減できるかどうか」を検証することを目的としています。
治療の位置づけ(+やさしい解説)
専門的な解説
この試験は、「マイエロブラティブコンディショニング(myeloablative conditioning)」として、同種造血幹細胞移植を行う子ども・若年者のAML寛解例を対象にした第III相無作為(ランダム化)オープンラベル多施設比較試験です。比較される2つのレジメンは以下の通りです:
- 標準アーム(BuCyMel):Busulfan + Cyclophosphamide + Melphalan の3種類のアルキル化薬を組み合わせたレジメン
- 実験アーム(CloFluBu):Busulfan(アルキル化薬1種類)+Clofarabine + Fludarabine(2種類の抗代謝薬)を組み合わせたレジメン
主要評価項目は、2年での「急性 GvHD(Grade III-IV)なし、かつ慢性 GvHD が“非制限性(non-limited)”でない、再発なし生存 (relapse-free survival)」つまり「重いGVHDや慢性GVHDで生活の質が制限されない形で、再発も起こらずに生存できる率(GRFS: GvHD-free, relapse-free survival)」を両レジメンで比較することです。
副次評価として、生着 (engraftment)、移植関連死亡 (transplant-related mortality)、感染、副作用の発生率、生活の質 (quality of life) なども追われます。効果はあくまで“検証中”であり、本試験で標準治療と比較して実際に優れているかどうかを明らかにすることが目的です。 ClinicalTrials+3MedPath+3センターウォッチ+3
やさしい解説
この試験では、移植前のお薬の組み方(コンディショニング)の違いを比べます。
標準の方法は3つの強い薬を使うやり方(Busulfan, Cyclophosphamide, Melphalan)、新しい方法はそのうちの強い薬を1つだけにして、他の薬(Clofarabine, Fludarabine)を使うことで「同じくらい病気に効く」けれど「身体への負担(毒性など)」を軽くできるかを調べています。
再発しないで2年過ぎているか、重い移植片対宿主病 (GvHD) がないかどうか、そして移植後の合併症が少ないかなどを比べます。
患者さん向け解説
以下、参加を検討される方向けに、本試験の内容を分かりやすく整理します。
どんな治療なの?
この治療では、造血幹細胞移植(他人の骨髄または末梢血幹細胞などを用いる移植)の前に「コンディショニング」と呼ばれる準備の化学療法を行います。薬の組み合わせが2種類あり、それぞれ目的が同じですが、薬の種類や副作用のリスクが異なります。
- BuCyMel(標準レジメン)
Busulfan + Cyclophosphamide + Melphalan の3種類のアルキル化薬を使います。がんを攻撃し、また移植した幹細胞が確実に骨髄に“生着”(定着)するような強いしくみがあります。 - CloFluBu(実験的レジメン)
Busulfan(アルキル化薬1種類)+Clofarabine + Fludarabine(抗代謝薬2種類)を使います。アルキル薬を減らし、他の種類の薬を組み入れることで、同じようながんの予防効果を保ちながら移植の毒性(副作用)を減らす可能性があります。治験中のため、どちらが“より良いか”はまだ確定していません。MedPath+2センターウォッチ+2
治療の流れ
- 病気の状態が寛解(血液・骨髄で白血病の細胞が少ない状態)であることが前提です。センターウォッチ+1
- 年齢は、AML診断時は 18 歳以下、移植時は 21 歳以下まで。センターウォッチ+1
- 移植を行う施設で、移植前の検査で安全性や臓器機能などを確認したうえで、無作為(ランダム)でどちらの薬の組み合わせを使うかが決まります。ClinicalTrials+1
- 治療日には、化学療法薬の投与、支持療法(輸液、感染予防など)、血液検査、臨床診察が行われます。副作用や体調を見ながら進めます。
どのくらい通院が必要?
- この試験は移植を含む入院治療であるため、入院期間が必要です。コンディショニング、移植、初期の合併症管理で数週間から数か月入院することが想定されます。
- その後も定期的な通院で、移植後の生着の確認、GVHD の有無、感染対策、血液検査などを行います。特に最初の1年は頻度が高いことが多いです。
どんな検査があるの?
- 移植前の骨髄検査および血液検査(白血球、赤血球、血小板、臓器機能、肝・腎機能など)で寛解の確認。センターウォッチ+1
- HLA 対応ドナーの検査、感染症チェック(ウイルス・細菌など)など。
- 移植後、幹細胞が骨髄に“生着”したか(neutrophil and platelet engraftment)を評価。MedPath
- 移植片対宿主病(GVHD)の評価(急性・慢性)、感染のモニタリング。
- 日常生活や成長・発達への影響、生活の質(quality of life)の調査。MedPath
日常生活の注意点
- 注射や薬の投与、入院が長期になるため、家族や介護者の協力が必要です。
- 感染予防が非常に重要です。手洗いやマスク、ワクチンの確認などを行う。
- 食事・栄養状態を保つこと。入院中は食欲不振など起こりやすいためサポートが必要です。
- 精神的・身体的ストレスがかかりますので、疲れやだるさ・痛みなどがあれば医療スタッフに早めに伝えること。
参加を検討する方へ
この治験はまだ研究中であり、どちらのコンディショニングがより良いかは確定していません。副作用として、移植に伴う臓器障害、感染リスク、移植片対宿主病(GVHD)、移植関連死亡 (transplant-related mortality) などが起こる可能性があります。移植の利益とリスクをよく理解した上で、担当医と十分相談のうえ参加を判断してください。
試験概要
- 試験番号(NCT)/正式名称
NCT05477589/“Studying Conditioning Regimen In Pediatric Transplantation − AML, SCRIPT-AML” ClinicalTrials - スポンサー情報
Västra Götaland Region(スウェーデン)などが主催。センターウォッチ+1 - フェーズ/デザイン
第III相(Phase 3)、無作為化(ランダム化)、オープンラベル、多施設治験。標準アーム対実験アームの比較。ClinicalTrials+1 - 対象疾患とバイオマーカー条件
急性骨髄性白血病(AML)で寛解中、造血幹細胞移植が適応となる患者。年齢:AML診断時 ≦ 18 歳、移植時 ≦ 21 歳。センターウォッチ+1 - 投与プロトコール(間隔、経路、開始タイミング)
公表されている情報では、投与スケジュールの細かい日程(どの日にどの薬をどの量投与するか等)は記載なし。経路としては通常静脈投与が想定されるが、詳細は公表情報なし。センターウォッチ+1 - 登録予定数と期間
目標登録数:170 名。MedPath+1
試験開始日:2022年6月7日。センターウォッチ+1
推定試験完了日:2021-003282-36 の登録で、主要評価の完了(primary completion)予定は 2029年12月31日、全試験完了は 2031年12月31日。MedPath - ステータス
現在 “Recruiting”(参加者募集中)。センターウォッチ+1 - 治験参加国/参加施設
ベルギー、デンマーク、フィンランド、香港、イスラエル、リトアニア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデンなど、複数国で実施。具体施設として、Princess Máxima Center (オランダ)、Helsinki University Hospital (フィンランド)、Rigshospitalet (コペンハーゲン) など。センターウォッチ+1 - 出典リンク
主に ClinicalTrials.gov: NCT05477589 ClinicalTrials+1
試験進捗状況
- 登録状況:募集中(Recruiting)。センターウォッチ+1
- 最終更新日:2024年12月16日付で情報が更新されており、ステータス等が確認されています。MedPath
- 日本の参加有無:公表情報なし。日本国内施設が参加施設として明記されておらず、現時点で日本での治験参加の可否は不明です。センターウォッチ+1
世界の疫学データ
急性骨髄性白血病(AML)の子ども・青年での罹患率や生存率について、以下のデータが参考になります:
- 世界:子どものAMLは白血病全体のうち少数派ですが、年齢によって罹患率は地域差あり。米国では乳児を除く小児 AML の発生率は約1-2/100,000 人年程度と報告されることが多い。
- 日本:小児白血病全体の発生率は年間で10万人あたり約4〜5人前後(白血病全体)。その中で AML は ALL(急性リンパ性白血病)ほど頻度が高くなく、AML の割合は約20-30%程度。日本では長期生存率が 60-70%前後の報告もあり、移植治療や支持療法の進歩により改善傾向。
(これらはあくまで公的登録データ・疫学調査からの一般的推定値であり、年齢層・治療条件によって異なる)
免責事項
本記事はあくまで臨床試験の情報提供を目的としており、治療の効果や安全性を保証するものではありません。参加可否は必ず主治医とご相談ください。
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