はじめに(疾患背景と現行治療の課題)
転移性大腸がん(mCRC)は予後が不良であり、標準治療としてmFOLFOX6(オキサリプラチン+フルオロウラシル+ロイコボリン)に加えてベバシズマブまたはセツキシマブが用いられていますが、持続的な治療効果が得られにくく、さらなる治療選択肢の開発が求められています。本試験「MOUNTAINEER-03」は、HER2陽性かつRAS野生型の未治療転移性大腸がんに対して、HER2標的治療薬ツカチニブ(経口薬)とトラスツズマブ(抗HER2抗体)をmFOLFOX6に併用することで、標準治療よりも優れた有効性と安全性を検証することを目的としています。Phase III試験として進行中です。PubMedASCOメイヨークリニック
治療の位置づけ(+やさしい解説)
専門的説明
ツカチニブはHER2に対する高選択的チロシンキナーゼ阻害薬であり、トラスツズマブはHER2を標的として抗腫瘍効果を発揮するヒト化モノクローナル抗体です。これらをmFOLFOX6に併用することで、HER2シグナル抑制と化学療法の相乗効果を期待し、腫瘍の増殖抑制および縮小をより強力に誘導する戦略を取っています。初回治療における進行抑制効果や生存改善が主たる期待です。効果は現在検証中です。
やさしい解説
口から飲むツカチニブと注射のトラスツズマブを、標準の化学療法mFOLFOX6にくわえて使います。これによって、がんの成長をより強く抑え、効果が長く続く可能性があります。ただし、まだ研究段階であり、効果や安全性は現在調べているところです。
患者さん向け解説
この試験は、これまでの治療が効きにくくなった方や手術が難しい方が対象です。特に、大腸がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が多く、かつRASという遺伝子に変化がない(RAS野生型)方が参加対象となる可能性があります。
どんな治療なの?
この治療は、3種類の薬を組み合わせて使います。
ツカチニブ(Tucatinib)
HER2という目印を持つがんに働きかける飲み薬です。
トラスツズマブ(Trastuzumab)
HER2という目印に結び付き、がん細胞を攻撃する注射薬です。
mFOLFOX6
オキサリプラチン、フルオロウラシル、ロイコボリンの組み合わせの化学療法です。
この3剤を組み合わせた治療群と、標準治療群(mFOLFOX6単独またはmFOLFOX6にベバシズマブまたはセツキシマブを組み合わせた群)とで比較されます。PfizerClinicalTrials.com+1Duke Health
治療の流れ
- 無作為に2つのグループに分かれます。
- グループ1(試験群):口からツカチニブ、注射でトラスツズマブ、そしてmFOLFOX6を点滴。
- グループ2(標準治療群):mFOLFOX6点滴のみ、またはそれにベバシズマブもしくはセツキシマブの注射が加わります。
- 治療ごとに採血、診察、画像検査(CT・MRI)などが行われます。
どのくらい通院が必要?
mFOLFOX6は2週間ごとに点滴で投与されます。トラスツズマブは注射で投与され、ツカチニブは毎日口から服用します。通院頻度や検査頻度についての詳細は、主治医とご相談ください。FORCEヴァンダービルト臨床試験
どんな検査があるの?
- 血液検査(肝臓・腎臓機能、血球数など)
- 腫瘍の大きさや進行度を調べる画像検査(CT、MRIなど)
- 心機能などの安全性評価(HER2治療では重要)
- 治療ごとの身体の状態(体重、全身状態)などを含む診察が行われます。PubMedASC Publications
日常生活の注意点
体調や食欲の変化に注意し、発熱、強いだるさ、息切れなどがあればすぐに医療機関へ相談してください。無理のない生活を心がけてください。
参加を検討する方へ
この治療はまだ研究段階であり、すべての方に効果があるわけではありません。副作用として、注射部位の反応、吐き気、倦怠感、血球数の変動、発熱などが出る可能性があります。参加の可否やリスク・ベネフィットについては、必ず主治医に相談してください。
試験概要
- 試験番号(NCT)/正式名称
NCT05253651 / MOUNTAINEER-03:An Open-label Randomized Phase 3 Study of Tucatinib in Combination with Trastuzumab and mFOLFOX6 versus mFOLFOX6 with or without Cetuximab or Bevacizumab as First-line Treatment for HER2+ Metastatic Colorectal Cancer(SGNTUC-029) - スポンサー情報
Seagen(Pfizer傘下のバイオテクノロジー企業)Georgia Cancer InfoPfizerClinicalTrials.com - フェーズ/デザイン
Phase III、オープンラベル、ランダム化比較試験 - 対象疾患とバイオマーカー条件
HER2陽性かつRAS野生型の転移性または局所進行不能大腸がん(未治療)PfizerClinicalTrials.com+1Clinical Research - 投与プロトコール(間隔、経路、開始タイミング)
ツカチニブ:経口(詳細な頻度は未掲載)
トラスツズマブ:注射(Cycle 1 Day 1、その後3週間ごと)
mFOLFOX6:2週間ごとの点滴(オキサリプラチン、フルオロウラシル、ロイコボリン)
標準群にはmFOLFOX6単独またはベバシズマブ/セツキシマブ併用ありFORCEヴァンダービルト臨床試験Duke Health - 登録予定数と期間
約800人(400人ずつ、1:1で割り付け)PubMed
登録期間・終了時期は未公表(”公表情報なし”) - ステータス
登録者募集中(”Recruiting”)、処理更新日:2025年8月14日までの情報ありヴァンダービルト臨床試験 - 治験参加国
北米、アジア、オーストラリア、ヨーロッパにおいて登録継続中ASCOPubMed - 出典リンク
ClinicalTrials.gov(NCT05253651)、および PubMed に掲載された試験デザイン報告(Strickler et al., Future Oncol. 2025)ClinicalTrialsPubMed
試験進捗状況
- 登録状況:募集中(2025年8月14日時点で最終更新)ヴァンダービルト臨床試験
- 最終更新日:2025年8月14日時点でClinicalTrials.govが最新の情報を処理済み。
- 日本の参加有無:日本では National Cancer Center Hospital East(柏)が関連著者として研究に関与しているものの、治験実施施設としての明記はありません(公表情報なし)。PubMedClinical Research
世界の疫学データ
転移性大腸がんの世界的な罹患率・予後などについての具体的な数字は本試験情報には含まれておらず、公表情報なしといたします。
免責事項
本記事は臨床試験の情報提供を目的としており、効果や安全性を保証するものではありません。ご自身の治療については必ず主治医にご相談ください。
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