臨床試験紹介(胃がん:RC48-ADC(Disitamab-vedotin))(NCT04714190)

はじめに(疾患背景と現行治療の課題)

胃がん・胃食道接合部がんは全世界で発生率・死亡率ともに高く、特に進行・転移した段階では治療選択肢が限られ、予後が厳しい状況にあります。日本でも胃がんは依然として主要ながんの一つです。

現在、初回治療としては化学療法(例えばプラチナ製剤+フルオロピリミジン等)が標準とされ、HER2陽性(HER2過剰発現)の症例ではトラスツズマブ併用療法が用いられますが、その耐性化や再発・転移後の治療選択肢の不足が大きな問題です。特に標準治療後に病気が進行した場合、奏効率(がん縮小など)が低下し、生存期間の延長が難しいことが多いため、新たな薬剤や治療戦略が求められています。

本試験は、HER2過剰発現胃がんにおいて、新しい抗体薬物複合体(ADC:Antibody-Drug Conjugate)である Disitamab-vedotin(別名 RC48-ADC) を、従来の標準的な化学療法・医師の選ぶ療法と比較することで、より良い治療効果を期待して設計されています。


治療の位置づけ(+やさしい解説)

専門的な解説

Disitamab-vedotin(RC48-ADC)は、HER2というがん細胞の表面に発現するタンパク質を標的とする抗体に、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)という細胞毒性ペイロードを結合させた抗体薬物複合体です。

抗体部分ががん細胞のHER2に結合することで、ADCが内部に取り込まれ、リソソーム(細胞内小器官)で分解されて細胞毒性物質が放出され、微小管阻害によって細胞分裂を止めてがん細胞を死滅させる作用が期待されます。

本試験は、進行/転移胃がんで少なくとも2種類以上のシステム化学療法が効かなくなった、または耐えられなくなった症例を対象とし、RC48-ADCを標準的な治療(医師が選ぶパクリタキセル、イリノテカン、またはアパチニブなど)と比較することで、無増悪生存期間(PFS)あるいは全生存期間(OS)の改善を検証するランダム化第III相試験です。

HER2過剰発現は IHC 3+ または IHC 2+ であり、この定義に基づき広く “classic HER2 positive” とみなされる症例を含みます。

治療投与は RC48-ADC を2週間ごと(Q2W)投与する方式で、腫瘍の測定可能病変および臨床状態、器官機能が適格であることが求められます。

安全性プロファイル、副作用発現頻度なども慎重にモニタリングされます。あくまで現時点では「検証中」であり、優越性は未確定です。 Larvol+3ctv.veeva.com+3ClinicalTrials+3

やさしい解説

この治験で使われている Disitamab-vedotin(RC48-ADC) は、「がんの目印」である HER2 にくっつくお薬に、「がんを壊す毒」をくっつけたタイプの薬です。がん細胞にくっつくことで、「毒」が細胞の中に入り込み、がんを壊すことが期待されます。

試験では、すでに通常の抗がん薬を2種類以上使ってみても効かなかった胃がんの人を対象に、この新しい薬と、医師が通常選ぶ治療薬(パクリタキセルやイリノテカン、または日本などで使われる分子標的薬アパチニブなど)のどちらがより良いかを比べています。

薬は2週間毎に投与され、がんがどれくらい抑えられるか、どれくらい長くよい状態が保てるか、副作用はどうかを確かめる試験です。まだ結果は出ておらず、効果や安全性は「可能性があります」という段階です。主治医と相談して、治験参加が自身に合っているかよく検討する必要があります。


患者さん向け解説

どんな治療なの?

この治療は RC48-ADC(Disitamab-vedotin) という薬を使います。これは、HER2という目印にくっつく抗体と、「モノメチルアウリスタチンE(MMAE)」というがん細胞を壊す薬が合わさったものです。

がん細胞に付着して内部に入り、分裂を妨げてがんを死滅させることが期待されます。従来の薬が効かなくなった症例で、「RC48-ADC」が「医師が選ぶ通常の抗がん治療薬」と比べてどれほど効果があるか、安全かどうかを調べるものです。効果と安全性はまだ検証中です。 ctv.veeva.com+2Larvol+2

治療の流れ

  • 初回投与以降、2週間に1回(Q2W:隔週投与) のペースで RC48-ADC を静脈注射(点滴)します。 ctv.veeva.com+1
  • 比較対象群では、医師が患者さんの状態に応じて パクリタキセル注射イリノテカン注射、または アパチニブ内服薬 のいずれかを選んで使います。 ctv.veeva.com+1
  • 治療日には、がんの状態を画像検査などで確認したり、血液検査で臓器の働きや血球数などを調べ、副作用がないかをチェックします。公表されているプロトコールにより、Q2Wでの投与が継続され、「臨床的利益が失われる」「許容できない毒性が出る」「患者または医師から中止の希望がある」「死亡」などのいずれかの時点で中止となります。 ctv.veeva.com

どのくらい通院が必要?

基本的には 2週間に1回の通院 が必要です。薬の投与、診察、検査(血液検査や画像検査等)がこのタイミングで行われます。体調や副作用の状況によっては、通院・検査が増えることがあります。 ctv.veeva.com

どんな検査があるの?

  • 血液検査(肝機能、腎機能、血球数など) ◆ 投与前および治療中に定期的に実施。公表情報に明記あり。 ctv.veeva.com+1
  • 画像検査(CTなど)で腫瘍の大きさや広がりを把握します。 RECIST 1.1 という基準で測定可能な病変が少なくとも一つ必要です。 ctv.veeva.com+1
  • 生殖能力への配慮として、妊娠可能な方は避妊が求められることがあります。 ctv.veeva.com
  • その他、参加資格として体力・性能状態(ECOG 値)、余命予測、臓器機能、過去治療歴など色々な基準が満たされることが求められます。 ctv.veeva.com+1

日常生活の注意点

  • 副作用として、疲れやすさ(倦怠感)、吐き気、血液の変化(貧血、好中球減少など)、肝機能異常などの可能性があります。これらが出たらすぐに医療スタッフに伝えることが重要です。
  • 感染しやすくなる可能性があるため、発熱などがあれば早めに受診を。
  • 通院頻度や検査が多くなることに備え、体調が悪い日は無理をしないこと。休養と栄養を十分にとる。
  • 薬の投与日は時間がかかることがあるため、移動や予定の調整を。
  • 妊娠可能な方は避妊が必要。男性側もパートナーと共に配慮すること。 ctv.veeva.com

参加を検討する方へ

この試験はまだ研究段階(第III相)であり、すべての方に利益があるとは限りません。効果としては、がんの進行を抑えたり生存期間を延ばす可能性がありますが、確定したものではありません。副作用もあり得ます。重篤なものが出る可能性も否定できません。参加のメリットとデメリットを主治医とよく話し、自分の病状・治療歴・生活状況を踏まえて判断してください。


試験概要

  • 試験番号(NCT)/正式名称
    NCT04714190 / “A Study of RC48-ADC in Local Advanced or Metastatic Gastric Cancer With the HER2-Overexpression” ClinicalTrials+2ctv.veeva.com+2
  • スポンサー情報
    REMEGen Co., Ltd. がスポンサー。製薬企業による治験。 Larvol+1
  • フェーズ/デザイン
    第III相 (Phase 3)、ランダム化、マルチセンター、オープンラベル、並行群比較試験(Parallel Assignment)方式。被験者は治験薬群か、医師が選ぶ標準治療群に割り付けられる。 ctv.veeva.com+2ClinicalTrials+2
  • 対象疾患とバイオマーカー条件
    対象は局所進行または転移性の胃癌または胃食道接合部腺癌(inoperable, advanced or metastatic gastric or gastroesophageal adenocarcinoma)で、HER2過剰発現。具体的には HER2 IHC 3+ または IHC 2+ を基準とし、過去の標準治療2種類以上が無効または耐えられない。測定可能な病変が少なくとも1つであること。 ctv.veeva.com+2Larvol+2
  • 投与プロトコール(間隔、経路、開始タイミング)
    実験群(RC48-ADC)は 2週間ごと(Q2W) の静脈投与で、病状改善・副作用などをみながら治療が継続される。比較群では、パクリタキセル注射、イリノテカン注射、またはアパチニブの経口投与を医師が選択。開始にあたり、少なくとも2種類のシステム化学療法が過去に使用されていること。 ctv.veeva.com+1
  • 登録予定数と期間
    登録予定数:351名 Larvol+1
    開始日は 2021 年 1 月頃(プロトコール提出)で、現時点では「募集中(enrolling)」の状態。終了予定日は公表情報なし。 ctv.veeva.com+1
  • ステータス
    募集中(Enrolling) ctv.veeva.com+1
  • 治験参加国
    主として中国で複数施設(多施設)で実施されている。 ctv.veeva.com+1
    日本の施設参加は、公表情報なし。 ctv.veeva.com+1
  • 出典リンク
    ClinicalTrials.gov: NCT04714190 ClinicalTrials

試験進捗状況

  • 登録状況・最終更新日
    登録予定数は 351 名。現在「募集中(enrolling)」のステータス。最終アップデートの情報では、2025年9月時点で ClinConnect や関連サイトにおいても「募集中」とされており、完了時期は未定。 ClinConnect+1
  • 日本の参加有無(具体的施設名または「公表情報なし」)
    公表されている情報の中には、日本で本治験に参加する施設の記載は ありませんctv.veeva.com+1

世界の疫学データ

胃がんの世界的/日本国内の罹患率・有病率を以下に示します。

地域年間罹患数あるいは罹患率*出典
世界約 1,100,000 件程度/年(胃がんはがん死亡原因の上位)GLOBOCANによる推定値など(WHO IARCなど)
日本胃がんは毎年約 100,000〜130,000 件の新規罹患者が報告されており、男女を合わせるとがんで最も多い部位の一つ。日本全国がん登録等によるデータ

* :具体的な「HER2陽性胃がん」の割合は報告によって差がありますが、胃がん全体の中で約 15〜20% 程度が HER2 過剰発現(IHC 3+ または IHC 2+/ISH陽性)であるとされます。 PMC


免責事項

この内容は、本臨床試験に関する情報提供を目的としてまとめたものであり、治療の効果や安全性を保証するものではありません。参加の可否は必ず主治医とよく相談してください。

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