臨床試験紹介(膵がん):MRG004A(NCT07138846)

はじめに(疾患背景と現行治療の課題)

膵臓がん(pancreatic cancer)は進行が早く、発見された時点で局所進行または転移を伴っていることが多いため、治療が非常に難しい疾患です。標準治療としてはジェムシタビン(gemcitabine)やフルオロウラシル(fluorouracil)などの化学療法が用いられますが、これらの治療に抵抗性をもつ症例も多く、生存期間の延長や生活の質の改善において十分とは言えないのが現状です。

このような中、本試験(NCT07138846)は、既存治療が効きにくくなった進行・転移性膵がんに対して、MRG004Aという新しい薬剤を導入し、支持的治療(症状緩和などを含む治療)との併用でどれだけ有効性・安全性があるかを評価することを目的としています。この試験は、現行治療オプションが限られている患者さんにとって、新しい可能性を探る意義があります。


治療の位置づけ(+やさしい解説)

専門的な解説

MRG004A は、**抗体薬物複合体(antibody‐drug conjugate, ADC)**です。具体的には、組織因子(Tissue Factor, TF)を標的とするヒト化モノクローナル抗体に、細胞内に取り込まれた後がん細胞を死滅させる薬物(ペイロード)を結合させたものです。抗体が TF を持つがん細胞表面に結合し、細胞内に取り込まれた後、ペイロードががん細胞の増殖を抑制または死滅させる作用を持ちます。

この試験では、化学療法等の既存治療が不十分であった進行または転移性膵がん患者を対象に、MRG004A と最善支持療法(best supportive care)を併用し、プラセボ+支持療法と比較することで、全生存期間(overall survival)、無増悪期間(progression-free survival)などの主要アウトカムを評価します。これは標準治療後の “セカンドライン以降” の患者に対する新しい治療戦略です。

やさしい解説

膵臓がんで、まず使う薬(ジェムシタビンやフルオロウラシルなど)が効かなくなった方を対象に、新しい“お薬”を試します。そのお薬(MRG004A)は、がん細胞の表面にある「組織因子(TF)」という印にくっついて、そこから中に入り、がんを攻撃する仕組みを持っています。

この試験では、そのお薬と“できる限りのケア”(痛み止めや栄養サポート、症状を和らげる治療など)を併用して、本当によく効くか、安全かどうかを調べます。今使っている薬が効かなくなった患者さんにとって、新しい選択肢を作る可能性があります。


患者さん向け解説

この試験は、これまでの治療が効きにくくなった方や、手術が難しい方が対象です。


どんな治療なの?

この治療は、MRG004Aという新しい抗体薬物複合体(ADC)と支持的治療(best supportive care)を併用します。
MRG004Aは、膵がん細胞の表面にある「組織因子 (TF)」という印を目印にそこへ結合し、薬物を細胞内に届けてがんを攻撃するお薬です。

対照群(比較対象)では、**プラセボ(偽薬)**と支持的治療が使われます。どちらの群に入るかはランダムに決まります。


治療の流れ

  • 薬は静脈から投与(点滴のように血管に入れる方法)される可能性が高いですが、現在公表されている情報では具体的な投与量や頻度等の細かい記載は 公表情報なしMedPath+2clin.larvol.com+2
  • 支持療法(痛みの管理、栄養サポート、心理的ケアなど)も同時に行われます。 MedPath+1
  • 治験期間は最大で 24か月間 追跡される予定です。全生存期間や無増悪期間などをその間に評価します。 MedPath+1

どのくらい通院が必要?

  • 試験は多施設で行われ、開始予定は 2026年1月1日 です。そこから患者登録が始まり、治療・追跡が進みます。 MedPath
  • 投与日や検査日は、支持療法や安全性評価のため定期的になる見込みですが、具体的なスケジュール(週ごと、3週ごとなど)は 公表情報なし。 MedPath+1

どんな検査があるの?

  • 患者登録前に病理診断および癌が局所進行または転移性であることの確認。 MedPath
  • 少なくとも1つの測定可能な病変(腫瘍)が RECIST v1.1 により評価可能であること。 MedPath
  • 性能状態(ECOG performance status)が0〜2であること。 MedPath
  • 血液検査等による臓器機能・凝固機能の確認。 MedPath
  • 妊娠中または妊娠可能な場合には有効な避妊の使用。 MedPath
  • 副作用や安全性のモニタリング(有害事象、重大有害事象など)。 MedPath
  • 腫瘍の増悪または縮小の画像による評価(CTなど)で、無増悪期間、応答率などを測定。 MedPath+1

日常生活の注意点

  • 治験中は体調変化(だるさ、吐き気、食欲不振など)や痛み、感染症の兆候に敏感になること。早めに医療機関に相談を。
  • 栄養に注意し、できるだけ日常生活を保つことが望ましい。支持的治療により症状の緩和を図る。
  • 治験薬の場合、薬が効かないこともあれば副作用が出ることもあり、それらがどれほどかは個人差あり。
  • 妊娠中、授乳中の方は参加できない可能性が高く、避妊が必要な条件がある場合あり。公表情報によると、妊娠可能な女性には6か月間の避妊が求められるとある。 MedPath

参加を検討する方へ

この治験は研究段階であり、MRG004Aが膵がんに対してどれほど有効か、安全かはまだ確定していません。
副作用としては、過去の第1/2相試験で、結膜炎、貧血、アルブミン低下などの副作用が報告されています。重大なものは比較的少ないですが、完全に安全とは言えません。 Targeted Oncology

参加の可否やリスク・ベネフィットについては、病気の状態、これまでの治療歴、体力などを含めて、主治医とよく相談してください。参加は強制ではなく、いつでも辞退可能です。


試験概要

  • 試験番号(NCT):NCT07138846/正式名称:A Study Comparing MRG004A Plus Best Supportive Care Versus Placebo and Best Supportive Care in the Treatment of Patients With Advanced Pancreatic Cancer MedPath+1
  • スポンサー情報:Lead Sponsor は Shanghai Miracogen, Inc. MedPath+1
  • フェーズ/デザイン:第III相(Phase III)、ランダム化(randomized)、二重盲検(double‐blind)、多施設(multi‐center)、比較対象群あり(MRG004A+支持療法 vs プラセボ+支持療法) MedPath+1
  • 対象疾患とバイオマーカー条件:進行性または転移性の膵腺癌(locally advanced or metastatic pancreatic adenocarcinoma)で、ジェムシタビンおよびフルオロウラシルを含む既存の全身治療が少なくとも1度以上失敗していること。測定可能な腫瘍 RECIST v1.1。性能状態 ECOG 0-2。組織因子(Tissue Factor, TF)発現条件については、この試験概要では「TF発現が高い」などの明記は なし。ただし、MRG004Aのこれまでの試験では TF 発現量が治療応答に関連を持つ可能性が示唆されている。 Targeted Oncology+2synapse.patsnap.com+2
  • 投与プロトコール(間隔、経路、開始タイミング):静脈投与と予想されますが、具体的な投与量、投与間隔、サイクル設計等はこの試験登録情報には 公表情報なし。試験開始予定日は 2026年1月1日MedPath
  • 登録予定数と期間:予定登録患者数 231名。追跡期間および主要な評価期間は最大で 24か月MedPath
  • ステータス:現時点で Not yet recruiting(未だ登録開始前)MedPath
  • 治験参加国:現在のところ 中国(上海) の施設での実施が確認されています。 MedPath 日本での施設参加については 公表情報なし
  • 出典リンク:ClinicalTrials.gov 試験ページ、MedPath 等。MedPath+1

試験進捗状況

  • 登録状況:未登録(Not yet recruiting)MedPath
  • 最終更新日:2025年8月17日に試験情報が提出され、2025年8月24日に初めて公開。 MedPath
  • 日本の参加有無:公表情報なし。試験実施施設としては上海の施設のみ明記されており、日本国内の施設名は登録されていません。 MedPath

世界の疫学データ

膵臓がんの罹患率・有病率(世界/日本)の簡単なデータ:

地域年間新規罹患数 / 日本・世界出典
世界約 48万人/年 (がんの中で死亡率が非常に高いものの1つ)WHO 2024年データ等(国際がん研究機関 IARC 等)
日本年間約 40,000~45,000人の新規膵がん患者。死亡率もほぼ罹患数に近い。国立がん研究センター「がん統計」など

膵がんは診断時に進行していることが多く、有効な治療選択肢が限られているため、これらの試験が期待されています。


免責事項

本記事は臨床試験の情報提供を目的としており、MRG004A の効果・安全性を保証するものではありません。参加可否は必ず主治医とご相談ください。

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