はじめに(疾患背景と現行治療の課題)
急性骨髄性白血病(AML:Acute Myeloid Leukemia)は、血液を作る細胞が異常増殖してしまい正常な血液細胞の生成が妨げられる疾患で、予後や治療反応性が遺伝子変異(たとえばFLT3変異など)や患者年齢などによって大きく異なります。
小児・AYA(思春期若年成人)AMLでは、化学療法+支持療法により治療成績は改善してきたものの、再発・難治性例、FLT3変異陽性例などでは依然としてイベント発生(再発、死亡など)が多く、薬剤による心毒性など副作用リスクも重大な課題です。
さらに治療強化をすると同時に副作用を抑えるバランスの取れた治療法の開発が求められています。
本試験「AAML1831」(NCT04293562)は、小児・AYAの新しく診断されたAML患者を対象に、標準的な化学療法に加えてあらたな薬剤(CPX-351と/or gilteritinib)の使用を比較することにより、より良い効果と安全性を検証することを目的としており、現行治療の限界を克服できる可能性が期待されます。効果は現在検証中です。
治療の位置づけ(+やさしい解説)
専門的な解説
この試験では、主に二つの新しい治療要素を比較・検討します。第一に CPX-351(脂質ナノ粒子/リポソーム包接ダウノルビシン+シタラビン) を用いることで、従来の遊離型(free drug)ダウノルビシン+シタラビン療法と比較して薬剤の骨髄内滞留時間を延ばし、効果を高めつつ心筋への影響(心毒性)を抑える可能性があります。第二に、 gilteritinib という、FLT3変異を持つAML細胞の増殖を促すシグナルを抑制する分子標的薬を、FLT3変異陽性患者に標準化学療法またはCPX-351と併用することで、治療反応性の改善を図ります。これらを標準治療(daunorubicin + cytarabine + gemtuzumab ozogamicin)と比較する多群ランダム化第III相試験です。
この試験には心機能サブスタディ(心臓超音波検査や心バイオマーカー測定など)が組み込まれており、治療による心毒性の発生頻度・程度も検証中です。効果については「イベント‐フリー生存(EFS)」「全生存(OS)」などが主要アウトカムです。公表情報では結果はまだ出ておらず、効果は検証中です。 ネブラスカメディスン+4UChicago Medicine+4ClinicalTrials+4
やさしい解説
この試験は、子どもや若い人たちで初めて急性骨髄性白血病と診断された人を対象に、「今までの治療」と「改良を加えた新しい治療」を比べるものです。
新しい治療には、薬を小さな脂の粒に包んで体内でゆっくり効くようにしたもの(CPX-351)と、特定の遺伝子変異(FLT3)がある人に効きやすい薬(gilteritinib)が入ります。これによって、がんをよりしっかり攻めつつ、心臓への負担などを減らせるかどうかを確かめています。
まだ治験中なので、どの方法が確実に良いか、安全かはこれから分かるところです。主治医と相談して判断することが大切です。
患者さん向け解説
以下は、もしこの試験への参加を考えられる方向けの情報です。医師とよく話し合ってください。
どんな治療なの?
この治療では、小児・若年成人のAML患者で、まずは標準化学療法(ダウノルビシン+シタラビン+gemtuzumab ozogamicin)を使う群と、CPX-351(リポソーム包装されたダウノルビシン+シタラビン)を使う群とを比べます。さらに、患者さんがFLT3遺伝子に変異を持っている場合には、gilteritinibという薬を追加する群が設定されます。FLT3変異がない人にはこの追加はありません。
治療の流れ
- 患者は小児・AYA(最大21歳以内)で、AMLと診断された直後に登録されます。 がん情報センター+2ClinicalTrials+2
- 無作為に治療群に割り振られます(標準療法 vs CPX-351使用)。 UChicago Medicine+1
- FLT3変異陽性の人には gilteritinib を追加で使う群があります。 UChicago Medicine+2ClinicalTrials+2
- 治療中、心臓の機能を調べる検査や、最低残存病変(MRD: 治療後にがん細胞がどれだけ残っているか)を調べる検査が行われます。 UChicago Medicine+2ネブラスカメディスン+2
どのくらい通院が必要?
日本の施設での実施は公表情報にありませんが、米国その他の施設では入院/外来での複数の治療サイクルがあり、初期は検査や支持療法のため通院・入院が頻繁になることが予想されます。治療開始から完了(複数コース、さらに予後フォロー)まで数か月~年を要する可能性があります。通院頻度・滞在は病院・国・患者さんの状態によります。
どんな検査があるの?
- 骨髄検査(AMLの診断・治療反応性評価のため) がん情報センター+1
- 血液検査(血球数、肝腎機能など) ClinicalTrials+1
- 遺伝子検査でFLT3変異の有無・タイプを調べる検査 UChicago Medicine
- 最低残存病変(MRD)の測定(治療後どれだけ病気が残っているか) ネブラスカメディスン+1
- 心機能検査(心エコー検査・心収縮率・心バイオマーカー)および心筋への影響をモニターする検査 UChicago Medicine+2ネブラスカメディスン+2
- 画像検査(必要に応じて)など。 がん情報センター+1
日常生活の注意点
- 治療中は感染症予防(手洗い・マスク・人混みを避けるなど)を徹底することが大事です。
- 嘔吐・吐き気・食欲低下・疲労(だるさ)が出ることがあるため、食事や休養を十分とること。
- 心臓への負担を最小限にするよう、治療中・後に心臓の症状(息切れ・胸痛・むくみなど)がないかを注意する。異常があれば医師に報告。
- 通院・入院が多くなるので、家庭・学校・仕事などとの調整をあらかじめ考えておくと良い。
参加を検討する方へ
この治験は現在も治療法の効果および安全性を検証中であり、すべての人に効果があるわけではありません。副作用としては、通常の化学療法に伴う血球減少・感染リスク・吐き気・脱毛などの他に、心臓への影響(心機能低下など)が起こる可能性があります。参加の可否、リスクとベネフィットについては必ず 主治医と相談してください。
試験概要
- 試験番号(NCT):NCT04293562/AAML1831(正式名称:A Phase 3 Randomized Trial for Patients with De Novo AML Comparing Standard Therapy Including Gemtuzumab Ozogamicin (GO) to CPX-351 With GO, and the Addition of the FLT3 Inhibitor Gilteritinib for Patients With FLT3 Mutations) UChicago Medicine+2がん情報センター+2
- スポンサー情報:Children’s Oncology Group(米国) ClinicalTrials+1
- フェーズ/デザイン:第III相/ランダム化比較試験(標準治療 vs CPX-351 を含む群、さらにFLT3変異陽性例での gilteritinib 併用群あり) がん情報センター+1
- 対象疾患とバイオマーカー条件:急性骨髄性白血病(AML)、新しく診断された例;FLT3変異陽性か否か、FLT3/ITD またはその他の活性型変異。 UChicago Medicine+2ClinicalTrials+2
- 投与プロトコール(間隔、経路、開始タイミング):公表情報には標準治療および CPX-351 の導入時期・投与日程の詳細(例:Induction course など)あり;CPX-351 を使う群と標準療法を比較。FLT3変異陽性には gilteritinib を併用。具体的な日程は治療の段階や群による。 UChicago Medicine+1
- 登録予定数と期間:登録予定数 約 1,186人。試験開始は 2020年7月、終了予定は 2027年9月。 Smart Patients+2ClinicalTrials+2
- ステータス:Recruiting(募集中) ネブラスカメディスン+2Smart Patients+2
- 治験参加国:主にアメリカ合衆国。また、AllClinicalTrials や SmartPatients の情報によれば「Australia, Canada, Puerto Rico」などでも実施予定/募集中とされています。日本での施設の参加は公表情報なし。 All Clinical Trials+2Smart Patients+2
- 出典リンク:ClinicalTrials.gov NCT04293562 ClinicalTrials+2ClinicalTrials+2
試験進捗状況
- 登録状況:募集中(Recruiting)となっており、登録者数および進捗は随時更新中。 ネブラスカメディスン+2Smart Patients+2
- 最終更新日:ClinicalTrials.gov によれば、情報は直近で更新されています(例:AllClinicalTrials版で 2025-08-12 の情報あり) All Clinical Trials+1
- 日本の参加有無:公表情報の中で「日本の医療機関での参加」が明記されていません。従って「公表情報なし」です。
世界の疫学データ
急性骨髄性白血病(AML)の発症率・有病率について、信頼できる国際データおよび日本国内のデータを以下に示します。
項目 | 世界またはアメリカなどのデータ | 日本のデータ |
---|---|---|
小児・AYA AML の発症率 | 米国における小児 AML の年間発生率はおよそ 年間10万人あたり0.7〜1.0人程度とされる。全小児癌の中で AML は割合的に少ないタイプ。 | 日本においても、小児白血病の中で AML は ALL(急性リンパ性白血病)より少数派。具体的な最新国内罹患率データは限られるが、年間小児癌登録統計で AML の発生数は全国で数十例〜百例台。 |
生存率・予後 | 小児 AML の5年生存率は40〜70%の範囲(治療内容・遺伝子変異・リスク群による)という報告あり。特に高リスク群やFLT3変異例では予後がやや不良。 | 日本でも治療成績向上中であり、生存率は国際報告とある程度近づいてきているが、遺伝子変異ごとの細分化や治療強度・リスク管理などで施設間差あり。 |
出典:小児白血病・リンパ腫の疫学データ、および AML の国際白血病研究団体・国立がん研究センター(Japan)など。具体データに関しては厚生労働省報告・日本小児血液・がん学会などの公表資料をご参照ください。
免責事項
本記事は臨床試験の情報提供を目的としており、治療の効果や安全性を保証するものではありません。試験参加や治療方針の変更を検討される場合には、必ず主治医とご相談ください。
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