臨床試験紹介(胃がん・胃食道接合部がん一次療法):TST001+Nivolumab+化学療法(NCT06093425)

はじめに(疾患背景と現行治療の課題)

胃がんおよび胃食道接合部(G/GEJ)腺がんは、世界的に発生率・死亡率が高い消化器がんの一つであり、特にアジア地域で罹患率が高い疾患です。進行例や転移例では、手術が困難なことが多く、化学療法および免疫チェックポイント阻害薬などのシステム治療が標準治療とされていますが、奏効率や生存期間には限界があります。特に、HER2陰性例や従来治療に抵抗性を示す例では有効な治療選択肢が限られます。

近年、CLDN18.2(Claudin18アイソフォーム2)という分子が、胃がん・胃食道接合部がんの一部でがん細胞表面に発現することが確認され、これを標的とした抗体薬剤の有効性が臨床試験で報告されつつあります。既に「ゾルベチクシマブ(zolbetuximab)」などCLDN18.2陽性例を対象とした抗体治療の第III相試験で、生存延長などポジティブな結果が示されており、新たな一次治療の選択肢として期待されています。

NCT06093425試験は、このCLDN18.2陽性の進行胃・胃食道接合部がん患者を対象に、TST001(Osemitamab)+Nivolumab+化学療法の併用療法が一次治療としてどれほど安全で、どれほど効果があるかを検証するものです。現行治療の限界を乗り越え、より良い生存率や生活の質の改善が期待されます。


治療の位置づけ(+やさしい解説)

専門的な解説

この試験で使われる TST001(別名:Osemitamab) は、CLDN18.2を標的とするヒト化モノクローナル抗体で、発現したがん細胞表面に結合し、ADCC(抗体依存性細胞傷害)などの免疫作用を引き起こすことが想定されます。

現行の併用戦略として、これに Nivolumab(PD-1阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬)と標準的な化学療法(例:CAPOX=カペシタビン+オキサリプラチンなど)が組み合わされます。免疫チェックポイント阻害薬はがんの免疫逃避機構をブロックし、化学療法は直接がん細胞を傷害/増殖を抑制する作用があります。これらを組み合わせることで、CLDN18.2陽性という特定のバイオマーカーを持つ患者で、がん細胞を標的かつ多面的に攻撃することで、奏効率や進行抑制、生存期間の改善を図ることが狙いです。

このような併用療法は、第I/II相でTST001+化学療法単独併用のデータが出ており、それらを踏まえ本試験ではさらにNivolumabを加えることで免疫応答の増強が期待されています。あくまで効果は 検証中 であり、安全性および最適な治療スケジュールや投与量についてはこの試験で明らかにされる予定です。

やさしい解説

この治験で使う「TST001(オセミタマブ)」は、体の中でがん細胞にだけ目印があるCLDN18.2というタンパク質を狙って攻撃するお薬です。さらに、免疫のブレーキを外すお薬(ニボルマブ)を使って、免疫細胞ががんをよりよく攻撃できるように後押しします。そして、がんを直接攻撃する化学療法も一緒に使います。

この3つを組み合わせることで、進行した胃や胃食道接合部がんで、がんが小さくなったり、進行が押さえられたりする可能性が期待されています。ただし、まだ研究の途中なので、すべての人に効くかどうかはわかっておらず、より詳しいデータが今後必要です。


患者さん向け解説

どんな治療なの?

この治療は、3種類の薬を組み合わせて使うものです。

  • TST001(オセミタマブ)
     がん細胞の表面に表れているCLDN18.2というたんぱく質を目印にする抗体薬です。がん細胞にくっついて、免疫の細胞に「これを攻撃してください」という信号を送ることが期待されます。
  • Nivolumab(ニボルマブ)
     免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬で、免疫細胞ががんを攻撃するのを邪魔している「ブレーキ」の信号を外します。これによって、免疫の力を高めます。
  • 化学療法
     がん細胞を直接攻撃し、増えるのを抑える標準的ながん治療です。具体的な薬剤はCAPOX(カペシタビン+オキサリプラチン)などが使われることが想定されています。ClinicalTrials+1

治療の流れ

  • この試験は 一次治療(手術が難しい・転移がある、治療経験のない進行例)を対象としています。ClinicalTrials+1
  • 投与は、TST001 + Nivolumab + 化学療法を併用します。どの薬がどの日にどのように使われるかの詳細(たとえば周期、投与ルート等)は、ClinicalTrials.govには「intravenous(静脈注射)」など基本的な方法は記載されていますが、化学療法の具体的なスケジュール・用量の全詳細は公表情報では限定的です。ClinicalTrials
  • 治療は周期的に行われ、定期的な診察や検査、画像診断などでがんの反応や副作用を確認します。

どのくらい通院が必要?

  • 治療は定期的な通院が必要です。化学療法や抗体薬・免疫薬の投与が静脈から行われるため、点滴可能な医療施設への通院が求められます。
  • 初期は副作用のチェックが厳しく行われ、頻度が高くなる可能性があります。
  • 次第に治療サイクルが安定すれば、その周期に従って通院回数が定まる見込みです。具体的な頻度は試験プロトコール次第です。

どんな検査があるの?

  • 血液検査:肝臓・腎臓機能、血球数(白血球・赤血球・血小板など)を定期的にチェックします。
  • 画像診断(CT、MRI等):がんの大きさ・広がりを定期的に評価します。
  • 臓器機能検査:心臓など副作用の起こりやすい臓器の状態を確認する可能性があります(特に抗がん薬や免疫薬使用時)。
  • バイオマーカー検査:がん組織でのCLDN18.2の発現を確認する検査が必須です。発現が十分でないと参加できない場合があります。DrugBank+3ClinicalTrials+3fdaaa.trialstracker.net+3

日常生活の注意点

  • 投与後、副作用として吐き気、食欲不振、だるさ、血液成分の減少などが起こる可能性があります。これらが強い場合には医療機関に相談を。
  • 免疫薬を使うことで発熱、体調変化、自己免疫反応(肺・肝臓などの臓器への影響)が出る可能性があり、息切れや黄疸などの症状があれば早めに受診を。
  • 食事・栄養補給を意識し、脱水予防。体調良く過ごせるよう休養を十分に取ること。
  • 通院が負担になることもあるため、交通アクセス・入院の可能性などもあらかじめ確認しておくとよい。

参加を検討する方へ

  • この治験はまだ研究段階であり、すべての人に効果があるとは限りません。参加による利益だけでなく、リスクや副作用の可能性があります。
  • 副作用として、血球数減少、消化器症状(吐き気・食欲低下など)、免疫関連の副作用(肝機能障害など)が報告される可能性があります。
  • 参加の可否や、自分自身の病状・既往歴(特に肝臓・腎臓・免疫状態)を主治医とよく話し合ってください。

試験概要

  • 試験番号(NCT)/正式名称
    NCT06093425 / A Phase 3, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Study Evaluating Combination of TST001, Nivolumab and Chemotherapy as First-Line Treatment in Subjects With Claudin18.2 Positive Locally Advanced or Metastatic Gastric or Gastroesophageal Junction (Gastric/GEJ) Adenocarcinoma ClinicalTrials+1
  • スポンサー情報
    Suzhou Transcenta Therapeutics Co., Ltd. fdaaa.trialstracker.net+1
  • フェーズ/デザイン
    第III相試験(Phase 3)、ランダム化、二重盲検(ダブルブラインド)、プラセボコントロールあり。ClinicalTrials+1
  • 対象疾患とバイオマーカー条件
    対象は、CLDN18.2陽性の局所進行または転移性胃腺がんまたは胃食道接合部(GEJ)腺がん。ClinicalTrials+1
  • 投与プロトコール(間隔、経路、開始タイミング)
    投与経路は静脈注射(intravenous)で、一次治療としてTST001 + Nivolumab + 化学療法を組み合わせる。細かい用量・化学療法レジメンおよび周期の詳細は公表情報では限定的。開始日は試験開始時期:2023年10月31日。fdaaa.trialstracker.net+1
  • 登録予定数と期間
    登録開始日:2023年10月31日。完了予定日(最終被験者の追跡終了):2025年10月1日。登録予定患者数の数値は ClinicalTrials.gov の概要に明記されていない(公表情報なし)fdaaa.trialstracker.net+1
  • ステータス
    現在進行中(Ongoing)ClinicalTrials+1
  • 治験参加国
    Suzhou Transcentaは中国の企業であり、中華圏を含む複数国での実施が想定されていますが、具体的なすべての国の施設は公表情報では限定的です。中国での施設はあるものの、日本での施設参加に関しては、公表情報なし。fdaaa.trialstracker.net+1
  • 出典リンク
    ClinicalTrials.gov: NCT06093425(主要一次情報)ClinicalTrials

試験進捗状況

  • 登録状況:試験は 進行中(Ongoing)fdaaa.trialstracker.net+1
  • 最終更新日:ClinicalTrials.gov によると、2025年9月3日が最後の情報チェック日。fdaaa.trialstracker.net
  • 日本の参加有無:公表情報には、日本の施設がこの試験に参加しているという記載は見当たりません。fdaaa.trialstracker.net+1

世界の疫学データ

  • CLDN18.2陽性率:胃がん・胃食道接合部がん(進行あるいは転移例)におけるCLDN18.2陽性(Tumor cells ≥75%が中等度~強い膜様染色を示すもの)の割合は、SPOTLIGHT試験およびGLOW試験のデータで約 38.4%PubMed
  • 胃がん全体の罹患率・死亡率:2022年の世界レベルで、胃がんは新規症例でおよそ 968,350例(全がんの約5%)、死亡者数が 659,853人(全がん死亡の約6.8%)であり、東アジアなどで特に高い罹患率が認められます。Nature+1
  • 日本での胃がん:日本も胃がん罹患率・死亡率ともに比較的高く、早期診断や治療が進んでいるとはいえ、進行例の予後は依然として改善の余地があります。具体的な数字としては、国立がん研究センターなどのデータで胃がんがん死亡数・罹患数が上位にあります。

免責事項

本記事はあくまで臨床試験の情報提供を目的としており、効果や安全性を保証するものではありません。治験への参加は必ず主治医とご相談ください。

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